本研究の目的は、平安時代を対象に言語の暴力(嘲笑・悪口)や殴打・闘乱など暴力の多様な形態を分析し、摂関期から院政期にかけての武士の発展過程を明確にすることである。この目的はおおむね達成しえた。 まず、摂関期の嘲笑・悪口や闘乱・刃傷さらに合戦など暴力の多様性を検討し、そこから武士や群盗という尖鋭な武装集団の成立を考えた。暴力の多様性については西山「新・年表『盗・闘』」や西山「平安京の<門前>と飛礫(下)」で考察し、とくに武士の対極の群盗を西山「京中<群盗>の歴史構造」で取り上げた。今後の課題は、この多様性のなかでの武士の暴力の特性の位置付けである。 一方、摂関期から院政期にかけて武士の発展過程を課題とし、とくに院政期の権門や武士政権に焦点を据えた。院政期の権門は元木『藤原忠実』や「院政期の権門」で検討し、平氏政権から鎌倉幕府へは元木『平清盛の闘い』や「王権守護の武力」「王権と武士政権」で詳細に論述し、また展望を示した。なお、院政期と鎌倉時代の段階的な発展を追究する必要がある。 また、平安時代の暴力の時代性を鮮明にするため、弥生時代から鎌倉時代までを視野に西山「古代の戦い・暴力・争い」で考察した。これは当初の計画ではなかったが、弥生時代の戦争研究に触発され、あえて鳥瞰を試みた。その結果、奈良時代の<平和と戦争>の様相が大きな特徴として浮かび上がった。この点も、今後の残された課題であろう。
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