本研究では、府県政研究の前提として、1871年の廃藩置県の経緯と県政の成立過程を初年度に研究した。ついで、府県政に重要な意義を持った廃藩置県と士族の動向を次年度に調査・研究した。この間の史料調査では、鳥取・熊本・徳島などの文書館・博物館・県立図書館に出かけ、旧藩文書や近代行政文書を閲覧・収集した。3年目となった本年は、廃藩置県後の府県政に携わった地方官の動向に視点を集中し、維新を体験した地方官の出身、人的関係、廃藩置県後の経歴、その施政を追究した。その際、長野・山梨・青森・岩手県の県立図書館、市町村資料館、編纂室などに出張し、関連史料の調査・収集を行った。 上記の史料調査・収集を踏まえて、現在は府県政の実態と地方官の動向を明らかにする史料の整理・分析を進めている。具体的には、岩代国巡察使・若松県大参事などを歴任した岡谷繁実、弘前県参事、陸軍主計総監などを歴任した野田豁通を取り上げて研究している。岡谷は館林藩出身で、幕末京都で山陵修補・尊皇運動に活躍し、戊辰戦争に際して東山道を進んだ草莽の高松隊の参謀として戦い、戦後は若松・水沢両県の参事、太政官史官や内務省出仕などを歴任し、晩年は歴史家として史談会などで活躍した。野田は熊本藩出身で、横井小楠に学び、戊辰戦争で軍事参謀試補兼軍事会計総括となり、胆沢・弘前両県の参事、陸軍省経理局長などを勤めた。男爵、貴族院議員となっている。両者はいずれも、幕末政治運動、戊辰戦争、新政府の地方官、官僚としての活躍が興味深い。これらの調査・研究の一端は『廃藩置県の研究』(平成13年1月刊)に発表したが、今後は府県政における士族の役割、旧藩士族の影響、さらには維新政権と士族の関係について成果の具体化を進める。
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