平安時代後期に作成された、法華経写経の伝世品を、日蓮宗寺院を対象に調査した。本年度も京都の諸寺を中心に調査を実施したのに続いて、和歌山・大阪・広島・兵庫・石川・神奈川の寺院に範囲を広げ、紺紙金泥の装飾法華経を調査した。これらすべての詳細な採寸を行い、写真撮影のうえ整理したところ、見返しの経意絵に見るべきものが多かった。その画題を得に注目したのであるが、構図・描法等の研究がさらに要請されるであろう。これらの伝世品の伝来過程を、所蔵寺院の由緒と関連づけて把握することは、文化財のもう一つの重要な問題点となろう。現在の段階では、これらの写経が日蓮宗寺院に一挙に購入されたのは、中世末期から近世初期にかけてのことと考えている。大寺院や貴族の邸宅に所蔵されていた平安写経が、そのころ町衆の帰依を得て富裕であった日蓮宗の寺院に、高価に売却したものでろう。このとき、光明皇后筆とか菅原道真筆というような、名筆家の権威をつけて譲渡したもので、これが現在も伝承として語られている。本年は、このような法華経の八巻本と十巻本を、10セット前後を発見調査し、目下はその集成を行っている。
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