本研究では、大名史料(大名家文書+藩庁文書)のうち、大名家文書に対象をしぼり、その全体構造を解明することを第1の課題とした。次に、それらを構成する個々の文書類型と現存する史料との同定作業を進め、個別文書認識の体系化を進めることを第2の課題とした。さらに、上記の検討により、現存する大名家文書の現用時秩序復元にとりくむための理論を構築し、従来の個別文書認識論の限界点を克服するとともに、大名史料論の体系化・理論化を進めることをめざした。史料収集では、前橋市立図書館・東京大学史料編纂所・国立公文書館内閣文庫・彦根城博物館・国文学研究資料館史料館等においてマイクロフィルムによる収集を行った。特に、散逸してしまって現在では伝存しない史料情報を補うために、江戸幕府日記などの一次的史料に書写された史料情報も重点的に収集した。 研究成果としては、津軽家文書「二の丸御宝蔵御書物並御道具目録全」のデータベース化を行い、現存史料との同定作業を進め、研究論文を発表した。また、諸大名家に伝来する現用時目録のデータベース化を進め、津軽家文書との比較検討を行った。その分析の主要なものについては報告書に<資料解題>を載せ、現用時目録も<資料>として全文を翻刻掲載した。個別文書の類型に関しては、「御内書」についての研究論文を発表したが、それ以外の個別文書については未着手に終わった。今後の課題としては、上記のような現用時目録の分析を蓄積し、データベース化をはかり、文書類型や文書名称の標準化を引き続き進め、個別文書の史料空間を解明しつつ、その体系化をはかっていく必要があろう。
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