仁和寺の研究において、その数70を超えるといわれる院家群の研究は不可欠の分野である。本研究は、仁和寺院家群の研究を推進するための基礎作業として、院家について記した院家記類を書誌学的に調査することを目的としており、平成11年度においては、仁和寺所蔵本の確認調査と同寺以外で所蔵されている本の採訪調査(採訪先は国立公文書館・東京大学史料編纂所・国立歴史民俗博物館)を行った。その成果として、『仁和寺諸院家記』と『尊寿院伝記』についての知見を深めることができた。『仁和寺諸院家記』については、奈良国立文化財研究所編『仁和寺史料』寺誌編一(昭和39年)で4種のテキストが紹介されているが、そのうち、心蓮院本(仁和寺蔵。室町時代末期頃の写本)と恵山書写本(史料編纂所蔵。江戸時代中期頃)は、各院家の歴代院主の経歴を集成するスタイルを示しており、現段階では心蓮院本が最も古い写本である。このスタイルの写本として、壬生家本(国立歴史民俗博物館蔵〈田中穣氏旧蔵〉。江戸時代前期頃)、和学講談所本(国立公文書館蔵。江戸時代後期頃)、仁和寺真乗院本書写本(史料編纂所蔵。江戸時代中期以降)がある。残る2種の顕證本と顕證尊寿院本(ともに仁和寺蔵)は、寛永年間(1624〜1644)の仁和寺伽藍再興に活躍した顕證上人が、各院家の由来についての記事に故地についての情報を付記したものである。後者を草稿本として清書されて成立したのが前者であり、国立公文書館に明治9年の謄写本、史料編纂所に明治20年の影写本がある。『尊寿院伝記』は、歴代院主の経歴を中心として尊寿院について記した書物で、仁和寺に巻子本が2種(テキストは同じ)存し、その1種を影写した本が史料編纂所に架蔵されている。平成12年中に刊行される予定の『仁和寺研究』第2輯において同書の翻刻と紹介を行う予定である。
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