初年度は、内モンゴル・オルドスのモンゴル文文書資料集『成吉思汗八白室』の内容の整理と読解を行った。この資料集は、チンギス・ハン祭祀に関する年代記の記事の抜粋、清代から現代に至る関係公文書史料、祭祀文献の三つの内容を有するが、今回研究の対象としたのは、その第二部分である公文書史料群である。ここには、清代乾隆23年から解放後の1950年に至る約200年間の千数百件の文書が収録されている。収録文書各件について、内容・見出しの訳出と一覧表の作成を行い、乾隆期の部分については、ラテン文字転写の作業を行う一方内容の解読を進めた。現在までに判明した新事実として、モンゴル人によって行われた秘密祭祀とされるチンギス・ハン祭祀には、清朝理藩院から毎年500両の銀両が支出され、祭祀器具の補修等に当てられていたこと、オルドス郡王旗属下であった祭祀の主宰者ダルハド集団から、郡王近親に税が徴収されていたこと、ダルハドが、郡王の私的な属民としての性格を持っていたこと等が明らかになった。祭祀関係文書の検討を通じて、祭祀自体ばかりでなく、オルドス部の社会構造や、清朝の支配のあり方を明らかにできることが判明した。 清末の内モンゴル東部、ジレム盟ホルチン部の開墾関係の史料集『蒙荒案巻』についても、内容の整理を進めており、収録文書一覧及び内容の摘要の作成を行った。読解を進める中で、ホルチン・トシエート旗及びザサグト旗について、ザサグ王公を含む旗の有力王家が、開墾に関わることを通じて旗内の属民や旗地を分掌していた状況が明らかになりつつある。
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