クシャン王朝の歴史考古学について、かねてより収集してきた資料に基づき、『大月氏-中央アジアに謎の民族を尋ねて』を出版した(1999年12月)。これまで個々に研究されてきた新発見の考古学資料を、遊牧民族「大月氏」とその後身「クシャン王朝」との歴史を軸に総合的に考察し、研究を前進させたところに特色がある。 1999年6月、金沢大学で開催された第7回「ヘレニズム・イスラーム考古学会」において、「安息雀(ダチョウ)の原産地」のタイトルで研究発表し、『後漢書』西域伝に大月氏(クシャン)、安息(パルティア)と並んで記載される条支国の位置、および甘英の大秦(ローマ)旅行(A.D.97-100)の真相、などについての新見解を述べた(『富山大学人文学部紀要』第31号に論文として掲載)。 1999年7月、ライデン大学で開催された第15回「南アジア考古学国際会議(SAA'99)」に出席し、「Jatakas represented in Gandhara art(ガンダーラ美術中のブッダ前生物語)」のタイトルで研究発表した。それは今回私が日本国内で調査したガンダーラ彫刻のうち、ガンダーラにおいてこれまで知られなかったジャータカを描く作品の紹介、研究であり、ガンダーラ美術中のジャータカの評価、再考を主張した。 1999年末から2000年初にかけて、パキスタンのタキシラ、ラホール、ペシャーワルの各博物館を巡回してガンダーラ美術とクシャン王朝の資料を収集した。とりわけ一昨年に新設されたペシャーワル大学博物館に収蔵されるガンダーラ彫刻はスワートにおける最近の発掘品であり、新資料としての価値が高い。また昨年の秋に東京国立博物館調査隊がパキスタン西北部のザール・デリーで発掘した多量のガンダーラ彫刻も同様に貴重な新資料であり、それらの詳細な研究はガンダーラ仏教とクシャン王朝史の解明に大きく寄与すると思われる。
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