本研究の目的は、スペイン支配の中枢がおかれたマニラを外世界(文明)、と内世界が出会う場所として設定し、そこに生きた人々と植民地都市マニラの発展との関わりを解明することであった。具体的には、中国人移民およびその社会が、(1)故郷福建といかなる関係を構築していたのか。(2)マニラの都市的発展に具体的にどのように関わったのか。(3)都市住民として、スペイン人あるいは原住民を中心とする植民地社会といかなる社会・経済関係を構築していたのかという観点から、スペイン植民地都市マニラの歴史を解明することを主な課題とした。 まず、先行研究の蓄積を批判的に継承しつつ、スペイン語手稿文書による新知見をもとに、スペイン植民地都市マニラの発展過程をイントラムーロスとアラバーレスとの関係を軸に跡づけた。その過程で、マニラの発展を特徴づけるキーワードは、マニラ・ガレオン貿易、中国人の流入、地震、および周辺海上勢力の動向であるとの認識をえた。次に、マニラの都市住民としての中国人の生活実態を、カトリシズムを基底にすえた植民地社会の文脈に位置づけ明らかにするために、「結婚調査文書」「マニラ司教区裁判所文書」「マニラ公正証書原簿」「マニラ税関文書」等の分析を行った。その結果、植民地社会の人間関係をめぐる個々の具体的な諸相の抽出をえて、その成果の一部を公刊した。さらに18世紀は東南アジア史において「華僑・華人の世紀」と言われるが、マニラの中国人移民社会を、同時代の東南アジア島嶼部各地における中国人移民社会成立の文脈に位置づけ、その特徴を明らかにした。また、過去3年間の研究成果の一部を2001年9月に中国厦門大学で開催された「21世紀初的東南亜経済与政治」国際学術研討会において報告する機会をえた。しかし残された課題も多い。とくに、量的分析によるデータの蓄積や中国人を受入れた現地の人々の視点からの分析はこれからの課題である。
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