本研究は、日本の学習院大学図書館に所蔵されていながら、従来、国内外の学界に全く紹介されていなかった、19世紀朝鮮王朝、慶尚道昌寧県の戸籍大帳の記載内容の分析を中心に据え、あわせて、関連諸資料を収集して、それらを利用しながら、当時期当該地域の社会の実態や、歴史的変化の実像を明らかにすることをめざすものである。戸籍大帳は、当時の社会や人々の生活の実情を解明するうえで、第一級の資料一つであるが、研究対象として利用するためには、その準備作業として、草書等で書かれた尨大な内容を読み取り、必要な事項を整理し、その全体像を把握することが不可欠である。そこで、本年度は、昨年度につづき、研究計画に従って、全14冊の戸籍大帳の中から、「昌楽面」「漁村面」「南谷面」の住民を記載した4冊をとりあげて、今後、分析の材料として利用できるように、基礎的な資料整理を終了させた。そして、予定を少しくりあげ、「合山面」「介福面」「城山面」を記載した1冊の整理作業に着手した。一方、関連諸資料に関しては、韓国で出版されている文書資料の収集につとめるとともに、昌寧県やその近郊に在住した知識人の文集の整理状況に関する情報を集め、一部の文集については、入手することができた。資料調査のために赴いた、京都大学図書館、天理大学図書館では、特に、この知識人の文集に関する多くの有益な知見を得た他に、昌寧県やその近隣の郡や県に関する地方誌資料を収集することができた。
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