本年度は中国イスラーム復興の研究の一環として、中国西北で行われているノンフォーマルなイスラーム女子教育の実態を調査し、その社会学的な役割とともに、現代の中国イスラーム復興を可能とした歴史的背景を考察した。「回族」の公定イスラームは中国共産党の指導を認め、国是の一つである中国国家に対する愛国主義をその教義の一つとしている。逆にいえば、それら条件が当てはまる限りにおいて、信教の大幅な自由を政府に容認させているともいえる。特に、政府が提供しえない公教育の欠落部分を補う形として、本格的な宗教教育を基層の人々、とくに女児に対して積極的に行っている。これは、貧富の差にあえぎ、男女の教育格差に悩む中国イスラーム基層社会の不安定要因を除去しようという点において評価てきる動きである。その動きを支えているのが、改革開放後、経済的に余裕を持ち始めたイスラーム共同体の責任者郷老である。これらの動きは一見、世界的なイスラーム復興の動きと連動しているようにもみえる。たしかに、その一面も見逃せない。が、しかし、国民統合を堅持するという点では、他イスラーム地域のムスリム系マイノリティが行っているような分離主義を正当化するような行動とは全く異なる。それは、中国イスラーム復興が民国時代の中国イスラーム新文化運動の流れを濃厚に受け継いでいるからである。現在のイスラーム復興の指導者、郷老たちは民国時代にアラビア語と漢語の二言語教育を受けた経験をもつ。各種のノンフォーマル学校で使われている教材もこの民国時代にさかんに出版されたものの新版である。教育を受ける機会を逸した貧困地帯の女児をノンフォーマルな面で支えるというシステムが中国イスラーム界で出来あがっているというこの事実は、中国社会がさまざまなセーフティーネットを持った軟構造を持っていることの一つの証明であるともいえる。
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