平成13年度は、第一に、中国イスラーム新文化運動時期に出版されたイスラーム雑誌を入念に検討し、それによって、この運動がどのような性格を持ったのか、入念に分析をした。その結果、エジプトとインドのイスラーム復興の影響が非常に強いこと、さらには中国独自の事情に応じて、イスラーム復興の内容も変えられていることを発見した。従来の世界の学界における定説では、エジプトのイスラーム復興の影響はインドネシアで止まっていることとなっており、20世紀のイスラーム史に対する新知見であるということがわかる。さらには、抗日戦争中のムスリムの抗日運動は愛国主義に基づいたいわゆる防衛ジハードを実現させることであったという結論をみた。その意味では、イスラーム世界と日本は文明論史的な対決をしたことがない、という、特に日本のイスラーム研究者の「常識」は訂正されなければならないことを証明した。第二に、上海という国際都市のイスラームに着目した。従来、上海史研究の分野では、宗教史に関してさかんに西洋人によるキリスト教の伝教と教育について論じられてきた。しかし、中国イスラーム改革運動に対するインドや東南アジアムスリムの影響についてはまったく論じられてこなかった。研究代表者はこのことについて検討を行い、上海においては国際貿易の進展によって、インド人が多く来航し、インドのイスラームの強い影響下のもとイスラーム復興が進展し、学校建設、コーラン翻訳などの諸現象が現れたことを証明した。以上の研究内容は、中国に対するいわゆる文化東漸の内容が従来はキリスト教と西洋思想の内容のみを差していたことを訂正することになり、中国もイスラーム圏という大きな枠組みの中で把握しなければならないという問題提起を行っている。
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