平成14年度は、本科学研究費補助金の最終年度であり、総まとめとしての研究を行った。第一に、中国イスラーム新文化運動の近代運動としての性格を規定した。研究代表者は1920年代から40年代の中国で出版されたイスラーム雑誌を入念に検討した。このことによって、この運動が過去のムスリム文化を中国史の中で肯定的に把握しなおすことによってムスリム・マイノリティが生き残りを模索した運動であるとともに、現代中国における多民族・多文化共存への道のりへの糸口をも構築したことを指摘した。ムスリムが差別を解消し、平等な民族関係を作るという点においては、この運動はかなりの成功をおさめた。しかし、それは一方で、中国の「回」族が漢族と同等となることによって中国社会においては権威的エスニシティとして存続をすることをも意味していた。したがって、中国に多数存在する他マイノリティとの平等な共存を目したものではないことはここで指摘しておかなければならないであろう。それが、今日もくすぶりつづけている新疆ウイグル自治区分離独立運動の問題を回族自身が解決できない原因の一つである。第二に、その知の権威が、エジプトやインドといったイスラーム復興の影響と、漢学知識・西欧近代知識の上に成り立ったものであるということを指摘した上で、現在の有効なハイブリッドとしての「中華文化」言説の形成に大いに貢献したということを明らかにした。以上の研究内容は、中国もイスラーム圏という大きな枠組みの中で把握しなければならないという問題提起を行うとともに、中国近代化の複合的な性格をも提示するものである。
|