魏晋時代(六朝前期)の貴族制社会の特徴を探る手掛かりとして、以下の三つの個別研究をおこなった。 1.西晋の元康年間(291〜99)に出た警世の書、王沈の『釈時論』を取り上げ、(1)その校勘や押韻の指摘などをも含めた訳注を作成(タイトルは「王沈『釈時論』訳注」。『京都外国語大学研究論叢』第55号、平成12年9月30日刊行、に投稿)、(2)その成果を踏まえ、「『釈時論』の世界」を執筆(『東洋史研究』に投稿予定。平成12年5月31日締切)、「設論」という文学ジャンルに属し、とくに後漢末の蔡ようの『釈誨』の影響が強い点を指摘し、指弾した最大の対象が「門閥主義」と猟官運動の二つの風潮を結ぶ鍵としての「虚誉」化した人物評価の評語であり、その点から魏晋時代の貴族制社会が真の門閥化の前段階であることを明らかにした。 2.「内藤湖南の貴族成立の論理-『支那中古の文化』の分析と通して-」(『内藤湖南-アジア再生の歴史学』、河合文化教育研究所、発行年月日は未定、に投稿)では、貴族の成立の基礎は学問(儒学)であり、学問の中毒としての反動が各節を後退させた結果、学問が収斂した礼儀を拠り所におく家が興論の支持を得て門閥貴族になったと『支那中古の文化』に見える内藤湖南の貴族が成立する論理を明らかにした。 3.「三国魏の明帝-奢靡の皇帝の実像-」(『古代文化』平成12年8月号に投稿)では、その宮殿の造影に代表される政策に対して「奢靡」と評された曹魏の明帝の実像を明らかにし、貴族制が貫徹する時代の肯定が有するジレンマの存在を指摘した。
|