「ローマ化」の実体とは何か。時代により、又地域により異なるローマ文化浸透の過程を北イタリア、下ゲルマーニアの諸都市を中心に検討する。これら両地域は本来ケルト人の原住地として密接な関係にあった。特に、後者は北イタリア出身のローマ兵の植民地として重要な役割を果たした。更に当該両地域は土着文化のローマ的文化変容が最も顕著に見られる地域でもあった。 その一方、ローマの征服後、前者はローマの市民領域となり、後者はローマの属州に留まった。このように部分的には同一の、又部分的には異なる条件下におけるローマ都市発展の諸様相を土着文化との関わりから明らかにすることが小論の目的である。 両地域における「ローマ化」の過程を調べるには、土着の信仰とローマ的地中海的信仰との関係に焦点を当てることが重要になる。特に、北イタリアにおいては、ローマ以前の信仰伝承にも注意すべきであろう。そしてその際には、紀元前四-三世紀にケルト人に占領された地域とヴェネティア人やラェティア人の居住地域を分けて考える必要がある。というのも、文化的な接触を除いて後者はケルト化の影響を受けていないからである。更に、これら両地域の周囲にはケルト以前の土着の伝承を持った人々の存在も想定される。つまりこの地域ではローマ、ケルトのみならず土着イタリア人の要素も考察の対象とすべきである。他方、ゲルマーニアにおいてはライン河下流域の諸都市が考察の対象となる。というのもこれらの都市の多くはローマ軍によって建設されたものの、その周囲には土着文化の影響が認められるからである。そこではローマ的信仰と土着の信仰の如何なる葛藤・融合が見られるのだろうか。こうして法・制度的条件の異なる両地域の諸都市の「ローマ化」の程度を比較することによってローマ文化の影響力とその限界を見極めたい。 尚、本研究の分析対象となる碑文の生産量の増減にも注意すべきである。
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