本研究では、16世紀から17世紀初頭にかけてのポーランドにおいて国制の変革にかかわる一連のテキストを、具体的な政治過程との関わりのなかで考察した。16世紀の国政上の争点は多岐にわたるが、本研究では、(1)空位期と国王選挙、(2)辺境防衛と領土の拡大、の2つの問題に注目した。 (1)の問題については、国王選挙制にかんする全般的考察を行なうと同時に、16世紀後半にこの制度に批判を加えたウカシュ・グルニツキの国制改革論の内容を検討した。また、空位期と国王選挙の具体的な事例としてヤギェウォ王朝断絶後の第1回空位期をとりあげ、国王自由選挙をめぐる議論や、フランスとポーランドの国制の比較論(絶対王制対貴族共和制、世襲王制対選挙王制)など国制改革にかかわる言説が、16世紀後半のポーランド貴族層(シュラフタ)の対フランス観に大きな影響を及ぼしていたことを明らかにした。 (2)の問題については、ポーランド国家の東方への拡大、とくにウクライナへの植民の推進を主張する一連の議論に着目した。植民推進論者たちは、西欧諸国が海外に植民地を獲得しつつある状況を念頭におきながら、ポーランド独自の植民地空間をウクライナにみいだした。本研究では、「新世界」にかんする情報の流通経路と内容、新しい空間認識が政治的言説に与えた影響、現実のウクライナ植民の実態との対応関係などを明らかにした。
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