18世紀の終わりから20世紀の前半まで、オーストラリアにおける最大のマイノリティ集団は、アイルランド系のカトリックであった。オーストラリアにおけるイングリッシュ・アイデンティティを歴史的に考察するためには、このアイルランド系カトリックとの関係をどうしても考察しなければならない。したがって、今年度は、オーストラリアにおけるアイルランド系カトリックのあり方と、イングランド系の人々のアイデンティティとの関係を中心に据えて、研究を進めてきた。まず史料の収集では、平成11年7月から8月にかけて、オーストラリア国立大学及びオーストラリア国立図書館で史料の収集を行い、年度の後半には東京のオーストラリア図書館で文献を入手した。また、オーストラリアの新聞、アーガス紙とシドニー・モーニング・ヘラルド紙を購入した。これらの史料は来年度以降の研究に反映させる予定である。また、実際に研究成果も生まれつつある。「オーストラリアのアイルランド系移民」は聖パトリックの日を軸にアイルランド系移民の意識を分析することで、アイルランド系移民の側からオーストラリアにおけるアイデンティティを研究した論文であり、「最もイングリッシュなもの、それは最も美しい」は、ルイーザ・アン・メレディスの作品を利用して、イングランド系の人々のアイデンティティの問題を追求した論文である。現在、これらの研究成果は、インターネットを通じて、ウェブサイト上で公開する準備をすすめている。
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