本年度は最終年度にあたり、これまで収集した史料の分析とその成果の公開のための作業を中心に進めた。具体的な成果は、研究成果報告書としてまとめたので、詳しくはそちらを参照されたい。 オーストラリアにおけるアイデンティティの問題は、オーストラリア史の主要なテーマの一つになっている。それは、多文化主義を標榜するオーストラリアにとって、ナショナル・アイデンティティと民族的アイデンティティの関係は、きわめて重要な問題となっているからである。従来、白豪主義政策を採用してきたオーストラリアにとって、イングリッシュ意識とそれが発展したブリティシュ意識は、ナショナル・アイデンティティの根幹を成していたが、それは中産階級的な階級意識と深く結合したものであった。これに対し、アイルランド系のカトリックは主要な批判者であったが、反アジア意識や、帝国主義を共有していた。オーストラリア・ナショナリズムは、イギリス系の人々にとってはブリティシュ意識と重複しており、アイルランド系の人々にとっては、反イングリッシュ意識を表明するスペースを提供した。 2001年はオーストラリア連邦成立100周年であり、オーストラリアのアイデンティティに関する展示や史料の公開が大きく進展したので、2001年7月中旬から8月末まで再度史料の収集を行った。また、インターネットを通じて公開されるようになった、オーストラリア連邦形成に関する史料なども同時にすべて蓄積した。しかし、これらのデータはあまりに膨大なために、研究の分析に体系的に導入することはできなかった。今後は、このデータの分析を進める予定である。
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