3年間にわたる研究期間中、3回の渡航(のべ約4か月)によって収集したデータに基づき、オーストラリアにおけるイングリッシュ・アイデンティティを軸とする、ナショナル・アイデンティティの歴史的形成の問題を分析した。収集した史料が膨大であり、かなりの史料の分析が未達成であるが、現在のところの報告の概略を以下に述べる。 オーストラリアにおけるアイデンティティの問題は、オーストラリア史の主要なテーマの一つになっている。それは、多文化主義を標榜するオーストラリアにとって、ナショナル・アイデンティティと民族的アイデンティティの関係が、きわめて重要な問題となっているからである。従来、白豪主義政策を採用してきたオーストラリアにとって、イングリッシュ意識とそれが発展したブリティシュ意識は、ナショナル・アィデンティティの根幹を成していたおり、それは中産階級的な階級意識と深く結合したものであった。これに対し、アイルランド系のカトリックは主要な批判者であったが、反アジア意識や、帝国主義を共有していた。オーストラリア・ナショナリズムは、イギリス系の人々にとってはブリティシュ意識と重複しており、アイルランド系の人々にとっては、反イングリッシュ意識を表明するスペースを提供した。 2001年はオーストラリア連邦成立100周年であり、オーストラリアのアイデンティティに関する展示や史料の公開が大きく進展したので、2001年7月中旬から8月末まで再度史料の収集を行った。また、インターネットを通じて公開されるようになった、オーストラリア連邦形成に関する史料なども同時にすべて蓄積した。しかし、これらのデータはあまりに膨大なために、研究の分析に体系的に導入することはできなかった。今後は、このデータの分析をさらに進める予定である。
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