本研究は、2つの目的をもっていた。そのひとつは、17世紀のフランスで、おもに「国王修史官」によってなされた「フランス史」の編纂事業の状況の確認であり、いまひとつは、こうした歴史書が書かれる際、基本的な史料がどのように収集され、保存されたかといった書誌学的な問題の検討であった。あわせて、当時の「情報」や「知」のあり方の考察も企図していた。結論的には、17世紀には、「フランス史」をはじめと、多くの歴史書が出版されたが、君主政の正統性や国王の栄光を称賛する任務をもっていたため、概して実証研究が疎かにされた。「物語的な歴史」が幅をきかせていたのである。その一方で、近代的な歴史研究につながる「考証研究」は、サン・ジェルマン・デ・プレ修道院などでかなり実践されていた。その代表であるマビヨンは、『古文書学』(1681年)を著している。したがって、17世紀を歴史研究の「不毛の時代」とみる通説は相対化されなくてはならない。また、歴史の知識を集積する場としての図書館が、「国王図書館」をはじめ、かなり整備されていたのも重要である。今日の図書・文書管理の基礎がつくられたからである。17世紀後半には、アマチュアの「コレクション」も広がっており、「知」が特権的な貴族や聖職者だけでなく、ブルジョワ層にも共有されはじめていたことがわかる。 なお、これと平行しておこなわれた、近代ドイツの歴史教育に関する考察からは、歴史学に付随する政治性のゆえに、歴史叙述の客観性、学問の独立性という思想を再検討する必要が生じている。歴史研究は、所詮、歴史の所産なのである。
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