本研究では、近代フランスにおけるユダヤ人の解放、ユダヤ人の「同化」の進展や反ユダヤ主義、さらに反ユダヤ主義とナショナリズムやファシズムとの関連の解明を目指した。 その結果、以下のような結論と見通しを得ることが出来た。 1 フランス革命前のユダヤ人の解放をめぐる論議では、社団のひとつとしてのユダヤ人共同体の存続を認めた形での解放を説く解放論と、共同体の一切の自立性を否定して個人としてのユダヤ人をフランス・ナシオンに統合するという解放論の二つが存在したが、革命時の「単一不可分の王国(共和国)」の形成という当時の理念を反映して結局後者が選択されることになった。 2 解放以降、ユダヤ人の社会進出と「同化」が進み、19世紀末以降のユダヤ人の間にはフランス共和国とユダヤ的価値を一体のものとみなすフランコ=ユダイスムが育まれていくが、そのイデオロギー的組織的基礎が第一帝政期の「大サネドラン」の「教義上の決定」と長老会制度の確立にある。 3 しかし、第二帝政期までのユダヤ人の社会進出には限界があり、本格的に国家中枢に進出出来るようになるのはフランス革命の理念を体現しようとした第三共和政期のことであった。そしてこれがフランコ=ユダイスムを育むと同時に、その後の反ユダヤ主義の重要な背景となった。 4 上記1と2に関しては、論文や今回の科学研究費報告書としてまとめることが出来たが、3に関しては、今後の研究に資する目的で「反ユダヤ主義の教皇」E.ドリュモンが創刊したLa Libre Paroleの1892年4月から1902年12月の一部の記事一覧を作成して公表したにとどまる。今後さらに研究を進め、その成果を公表することにしたい。
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