本年度は各地の窯業生産地の消長を集成的に検討した。具体的には本年度に窯跡研究会によっておこなわれた窯跡(窯体のわかるもの)の集成をレファレンスとして、各地の窯跡の集成につとめた。発掘がおこなわれていない窯跡についても、分布調査などの報告をもとにして、なるべく全体の動向がわかるようにしている。そして、各生産地の窯跡一つ一つについて時期を決定していくことから、律令制下の郡ごとにそれぞれの消長を把握した。結果としては、7世紀はじめ、8世紀中頃、9世紀末などの諸画期を確認している。なお、集成の過程で、窯体構造なども含めた窯跡データベースを構築した。 つぎに生産地の状況がよくわかる地域については、郡衙をはじめとする官衙遺跡の推移を合わせて検討した。その結果、たとえば信濃国や豊後国では官衙の移転と窯業生産地の消長がよく対応することが明らかになった。郡衙遺跡の消長についてはまだ把握が難しいため、このような対応がつかめる地域はまだ稀であるが、畿内近国については検討のための資料収集につとめており、詳細な検討は来年度の課題としたいと考えている。また、但馬の三宅廃寺の例のように、各地における古代寺院の成立と窯跡の動向とが何らかの脈絡をもっていることが研究の過程で明らかになってきたため、官衙の消長だけでなく、寺院の消長も合わせて検討する必要を感じており、その作業にも着手している。研究成果については、まだ検討途上の事柄も少なくないが、基礎的な資料の収集という点については初期の目的を達したものと考えている。
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