日本列島の中期旧石器時代(12万年〜3万年前)の石器群を対象に遺跡立地、石器組成、剥片剥離技術、斜軸尖頭器の型式学的検討、使用石材の検討を行い観察記録票を作成した。今年度は関東地方、東北地方、北海道地方の該期石器群について観察を行った。観察と併せ計測、写真撮影も行った。その結果、中期旧石器遺跡の立地が痩せ尾根に限定され、使用石材も従来から指摘されているとおり頁岩など前期旧石器に較べ軟質で加工の容易な石材が選択されていることを確認した。また斜軸尖頭器については左右対称形で槍先としての機能を想定できそうなものと、左右非対称形で刃器としての機能を推定できそうなものに二分できそうな見通しを持った。さらに斜軸尖頭器の素材剥片を剥離する石核については、従来言われてきた円盤形石核より単なる打面転移石核の方が量的には多いようである。 北海道の中期旧石器については今年度新たに総進不動坂遺跡7層上面で5点の中期旧石器が出土した。この石器群は台形状剥片を用いた基部加工石器と縦長剥片素材のスクレイパーからなり、斜軸尖頭器が含まれていなかった。一昨年同遺跡6層上面から出土した石器群はすべて斜軸尖頭器であったことと対称的であり、北海道については資料の希少性もあり中期旧石器石器群の全貌はまだ明らかでない。また同遺跡のX層で前期旧石器も出土し、北海道での中期旧石器がこうした前期旧石器の系統になるのか更なる問題も生じた。 また、槍先の着柄・固定に関わる文献の検討では、オーストラリア・アボリジニの民族資料について資料の収集を行った。タール、ピッチを用いて柄と石器を固定する方法について多くの事例を収集することが出来た。
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