本年度が本研究の最終年にあたる。今年は、まず第一に過去2年間に実施してきた千葉県佐倉市遠部台遺跡の発掘調査の成果を確認し、以下の3点を確認した。 1 縄文時代の遺跡の中でも希有の量を出土する「土器塚」は、そこから発掘された土器の型式の判定から、それらは縄文時代後期中葉の加曽利B2式にほぼ限定されること。 2 膨大な量の土器群は、集積ブロックと呼称した意味のあるまとまりの集合として成り立っているものであり、現時点で採取した集積ブロックは約500である。その内容については、一部について分析をおこない、その結果、集積は複数の個体の破片から構成されるものの、器種が多岐にわたることは少ない。 3 出土した土器の大半には、二次的な被熱痕や煤の付着が確認されていて、大半が使用された後に集積されたものである。 以上の成果の確認によって、「土器塚」は土器の製作工人が残したアトリエや不良品の廃棄場所ではなく、大量の土器を使用し、破損した土器を集積したものであること。さらに周辺遺跡の踏査成果を踏まえるならば、群集した遺跡群の中で土器塚は限定された少数の遺跡にのみ形成されたことが明らかになってきた。 本年度の研究は、土器集積層の遺存の良好な部分について発掘調査を実施した。その結果は、当初2年の成果と予測を裏付けるものであり、ここに一定の行為によって形成された土器塚の現象面における把握ができたものと思われる。 そしてまた、出土した土器の型式学的な比較から加曽利B2式と呼ばれる土器群が、いくつかに細分されるべき根拠を得ることもできた。これらの研究によって、土器塚の形成過程が詳細に解明された例はこれまでにも例がなく、貴重な事例となる。 これらの事実を踏まえ、さらに土器の集散現象の背景を明らかにする方法として、土器製作技術の分析、土器胎土からみた産地推定分析を実施することによって、特定の資源や物資の集積する過程や当時の社会の流通機構について、詳細な実態が解明されるものと期待される。
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