本研究の目的は、古墳時代中後期における塩流通システムを復元することにある。この時代の主要な塩生産地域の一つである中部瀬戸内海地域を対象として検討を進めた。古墳時代中後期には、製塩土器に詰めて塩を消費地に運搬し、保管する方式が一定普及する。本研究では型式学的検討に基づき、製塩土器諸型式の産地同定を行った。その成果から各々の消費遺跡に持ち込まれた製塩土器の産地=塩供給地を推測し、塩流通の特質を復元した。その内容は次のとおりである。 (1)首長-共同体・首長相互の二重の関係に基づく生産物の集積-流通-再分配の過程を経て、旧郡レベル程度の比較的小規模な流通圏の形成が塩流通の基本となる。 (2)中部瀬戸内海沿岸地域では各流通圏は単一の特定小地域産塩に依存する関係が基本となる。ごく例外的に複数地域産塩が一つの流通圏で共存することが確認できるが、その部分の再分配統括者=首長層の政治的位置に基づく特異な現象でああろう。 (3)大和・河内などの畿内中枢地域では、中部瀬戸内海沿岸諸地域と異なり、各流通圏が複数地域産塩に依存する関係が一般的である。中部瀬戸内海産塩はその一部を構成している。 (4)こうした状況は畿内中枢地域における各流通圏の再分配統括者=首長層が大和政権の職務執行機関を構成する関係に基づくものであろう。
|