本研究では、本来、自然分布していない北海道や伊豆諸島の島嶼部からなぜ縄文時代のイノシシが発見されるかについて、考古学および動物学の両面から研究を行い、基礎資料を作成すると共に、イノシシ発見の背景を検討することを目的とした。研究内容は1)島嶼部及び対比資料としての本州出土イノシシの計測、2)島嶼側出土遺存体のDNA分析、3)現生標本の収集および「島嶼隔離効果」の動物学的考察の3点である。考古学的研究では、北海道14遺跡、伊豆諸島7遺跡を対象に骨計測学的調査を行った。 時空分布の調査およびLSI(Long Size Index)法による分析の結果、前者のイノシシは従来の指摘よりも時期的により古く、かつ広域に分布し、本州より大型個体を含むこと、一方、後者は出土例の増加はないが、すべてが極小型であることが明らかとなった。また齢集団の復元では両地域とも幼獣と成獣に偏る点で本州のイノシシ集団とはかなり異質であり、きわめて不自然な出土状況を示すことが判明した。また、DNA分析の結果は島嶼部イノシシはニホンイノシシであり、これらは本州からの持ち込みの可能性が示唆された。さらに動物学的研究からは、島嶼隔離されたイノシシ集団は一般に小型化傾向と同時にベルクマンの法則も関与し、かつ島嶼のサイズによっても差異が生じることを指摘した。 このような研究成果から島嶼部イノシシを見ると、島嶼部はベルクマンの法則が関与していることを強く予想させるが、それ以外に縄文人による飼育があったかどうかまでは判断が難しかった。そのため、今後は縄文イノシシの形態から地域性を明らかにすることと共に、他分野との共同研究をさらに進めることによって、「飼育」についての定義付けを考古学から行っていくことが重要と考えられる。
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