本年度は、わが国の都城を特徴づける条坊制に焦点をあててデータ収集をおこなった。すなわち、藤原京の条坊道路の側溝、および、その内部の建物群の図面を集成した。また、平城京についても、一部、集成をおこなった。そして、道路幅の規格、造営方位などを検討した。しかし、排水体系の検討までには至らなかった。また、図面も統一した規格で集成できておらず、課題を残した。さらに、藤原京について、大縮尺の地図を収集した。 また、都市機能の比較という視点から検討をおこなうにあたって、その分析指標の抽出と、その指標のもつ意味の検討が必要と考えて、古代から近世にかけての都市、大宰府、多賀城、仙台城下町、大坂、江戸、博多について、考古資料ならびに、文献資料から比較検討をおこなった。そして、上水の確保、排水、ゴミの処理、トイレ、交通体系、物資の流通、生産、情報系、人口、言語、災害などの把握が大きな意味をもちうることを確認し、こういったことが、考古資料にどのようなかたちで反映されるのかについて検討を加えた。さらに、考古資料として、現在に残らない性格のもの、たとえば、言語、あかりなどの存在に気がついた。こういった指標は、これまで、ほとんど検討がなされておらず、今後、どういったかたちで分析を進めていくのかという新たな課題が生じることとなった。 ところで、今年度の条坊制と都市機能の要件からの研究の結果、条坊制は都城制、ならびに律令制の形成にとっては、きわめて重要な指標であるが、都市機能という視点からの都市研究にとっては、その存在は絶対的な要件とはならない可能性が明らかとなった。条坊制の枠組をはずした飛鳥・藤原京、平城京をはじめた古代都城の都市機能の比較が必要であるという研究の方向性がより明確となった。
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