抄物は室町時代の口語を研究する資料として価値が高い。本研究は、未開拓の抄物を見つけ出し、筆者が既に調査し得ている約5000点の抄物と合わせて、その目録を作成し、日本語史研究に資せんとするものである。 (1)調査不十分な抄物の調査と新しい抄物の発掘 成城大学図書館・東洋文庫・国立国会図書館・国文学研究資料館・国立公文書館・伊勢神宮文庫・京都大学附属図書館・京都大学文学部・高山寺・大阪府立中之島図書館・天理大学附属天理図書館・阪本龍門文庫・愛媛大学附属図書館・琉球大学附属図書館・沖縄県立博物館などにおいて抄物の発掘に努めた。特に、吉田神道家の、『祓八箇之大事』などをはじめとする特定の原典をもたない一種の抄物群、抄物に連続する片仮名交じり注をもった節用集、『禅宗無門関抄』『碧巌録抄』の仏書抄物の諸版、史書抄物、書き入れ抄などの、発掘と整備とに力を注いだ。 (2)各抄物の素姓の解明と目録の作成 (1)特定の原典に対する抄物、(2)特定の原典への書き入れ仮名交じり抄物、(3)特定の原典をもたない一種の抄物に大きく三分し、(1)を更に漢籍(経書・史書・子書・集書)・仏書・国書に類別して進めているところの抄物目録稿に、新しく発掘し得た抄物を、その素姓を解明した上で、しかるべき位置に位置づけた。また、目録稿未完成の仏書・国書の部分の手書き目録の作成に努めた。そのうち、史書の抄物目録と、仏書のうち『碧巌録抄』の目録の一部を報告した。
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