日本語の方言のもっとも南にある八重山方言は、これまでも多くの研究者によって調査、研究がおこなわれてきたが、音声の研究が中心で、文法の研究はおくれていた。本研究では、八重山地域の中心である石垣市の市街地の方言の動詞について、現代日本語研究の現在の水準での文法の研究をおこない、消滅の危機に瀕する方言の記録と継承のための基礎となる記述をおこなうためのものである。 石垣方言の動詞形態論のうち、とくにテンス・アスペクトについて、調査研究をおこなった。 研究協力者の狩俣繁久氏、宮良安彦氏、登野城ルリ子氏、および後半からあらたに参加した島袋幸子氏とともに、石垣方言のテンス・アスペクトの文法的な意味の体系を追求した。母語の話し手の内省による用例を主とした分析であるという限界のなかでではあるが、いくつかの成果をあげることができた。 石垣方言のアスペクトは基本的には完成相numuN、継続相numiN、結果相nume:Nの3項対立である。継続相と結果相は標準語のシテイル、シテアルと異なるところがある。とくに結果相は、作りが標準語のシテアルににているが、意味・用法は独自のものである。西日本の3項対立と異なること、また、おなじ琉球方言である首里方言などとも異なることを確認した。さらに、石垣方言には、2つ以上のaN(ある)/uN(おる)をともなって作られた、派生的、複合的な形として、nume:re:N、numi ure:N、numi ure:e:Nがあるが、それぞれの位置づけと意味的な特徴についても、ある程度の知見をえることができた。
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