5月1日から6日まで、6月19日から21日まで、8月16日から9月3日までに区分して花巻市に出張し、宮澤賢治記念館に所蔵する自筆原宿のCD-ROMカラーコピーを調査した。 この調査では、特に動態詩集としての 《春と修羅 第二集》の改稿過程および『春と修羅 第三集』の自筆原稿と『新・校本全集』第四巻との異同を確認する作業を進めた。CD-ROMカラーコピーによる調査の場合は、同.時にすべての原稿を見ることを許されるため、自筆原稿による少数の資料のみに限定しつつ個別の調査をする場合とは異なった利点もあった。 従来の賢治研究では、『校本宮澤賢治全集』または『新・校本宮澤賢治全集』のテキストを金科玉条としてきたが、このたびの調査によって活字化された資料からは得ることができない筆跡の変化や書き込みの順序の他、同じ筆で同時期に手入れがなされている他作品との関係などを明らかにするより確かな手がかりを得た。その他作者の口語詩と文語詩が分離していく過程を究明する具体的な資料を得た。 併せて補助的資料として、宮澤賢治らが盛岡高等農林で発行していた同人誌「アザリア」の同人であった河本緑石が帰郷後に倉吉で発行していた「砂丘」の初期号、従来その存在を全く知られていなかったガリ版雑誌「深緑帖」、句稿書簡なども発見することができた。これらは同じ「アザリア」の同人の二人が、学校を卒業後に二つの場所でそれそれに農学校の教師をしながら、個性に合わせて独自の文学活動を行っていた姿を知る資産な資料である。これらを相互に比較することによって時代の特徴と作者の詩歌観形成期の一端を解明することができると確信を深めている。
|