報告者が本研究のおいて企図したことは、宮沢賢治の未完の口語詩集《春と修羅 第二集》の10年間に及ぶ編集過程を詩集の動態のままに捉えて、ここに反映された詩歌観展開の様相をその前後も含めて具体的に跡づけることである。研究はなお途上にあるが、報告者が、本研究の予定の期間中に達成できた成果は、次のとおりである。 「文語詩稿五十篇「流氷」の背景」(「論攷宮沢賢治」3号 2000年)及び「〔萌黄いろなるその頸を〕」(柏プラーノ発行『宮沢賢治 文語詩の森 第三集』2002年)では、賢治の文語詩の作品論の形をとって、文語詩と口語詩との相互的関係を探った。 「《春と修羅第二集》一九二四年早春第二詩群の意味…一次清書稿段階に注目して…」(「論攷宮沢賢治」4号 2001年)及び「詩章「春と修羅」の構成…《第二集》の詩群との対比を念頭に…」(「論攷宮沢賢治」5号 2003年)では、『春と修羅』(第一集)と《春と修羅第二集》の冒頭部分を対比して、両者の対称的な構造を解明した。 「宮沢賢治・封印された『慢』の思想…遺稿整理時番号10番の詩稿を中心に…」(「国文学攷」第176・177号合併号 2003年)では、詩人が自ら封印した詩稿に注目し、最晩年の思想を解明した。 また、保阪嘉内『短歌日記』を翻刻した。これは作者と保阪嘉内との初期の交流の実態を明らかにする貴重なものであると同時に、作者達が在学中に発行した同人誌「アザリア」の前夜の様相を知る上で貴重な資料である。
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