平成11年度は、国立公文書館内閣文庫の国書分類目録に従い、総記部門から順々に調査を開始した。享保元年から享和3年までに刊行された刊本の序・跋・識語、および凡例などに明記される撰文時期・撰者の記述をそのまま抜き書きし、原稿用紙1枚を書籍1点に当て(記述が多い場合は複数枚の用紙を綴じて1点とする)、その記録を元に補助者がテキストデータとして入力していくという手順で作業を進めた。 今年度は内閣文庫の蔵書を主たる調査対象とし、異本の調査のために補完的に東京都立中央図書館・国立国会図書館の蔵書も検討した。なお、西尾市岩瀬文庫は平成11年秋より休館期間に入ったため、事実上研究対象から除外せざるを得なくなった。 現在、仏教部門の途中まで調査を進めているが、近世中期の出版が飛躍的に高まった部門と、むしろ近世前期までに主要な書籍が出揃い、中期以降はその後刷りの繰り返しが多い分野の違いなどが、徐々に明らかになりつつある。細部にわたる調査は行き届いていないが、農業などは前者に該当し、仏教などは後者に当たるようである。また、国文学の立場からは網羅的に調査することのない実学の分野(たとえば農学など)に、経学や詩文で著明な文人が序文を与えることが頻繁に見られるなど、この作業を通して近世中期の学芸の世界が立体的な構造を持っていたことが今更のように確認できつつある。
|