平成12年度も、前年度に引き続いて国立公文書館内閣文庫所蔵の、享保元年から享和3年までの刊本の、序・跋・識語および凡例などに明記される撰文時期・撰者の記述をそのまま抜き出して集積する作業に従事した。同文庫の分類目録の「文学」中、漢文の項目に属する文献が圧倒的に多く、また情報集積の必要性も高いので、今年度は「文学」までの検討を慎重に行うこととし、ほぼその作業と終えた。 雑誌論文として発表した「成島家歴代の立場-乾照夫氏「幕末期の成島柳北」に寄せて-」は、乾氏論文の不備を批判する形で、江戸時代の成島家歴代が江戸幕府の中で占めた位置について、彼らの著述にいちいち就きながら論じたものであり、特に3代信遍が農書や医書に書き与えた序跋類の検索は、基本資料の整備に大きく貢献した。信遍の農政家の理論指導者としての立場を実証する資料は、本研究を通じて初めて得られたものである。 また、奥儒者中村蘭林との関係についても、蘭林の著述に信遍がほとんど関わらないことから見て、全く立場を異にしていたとの推測を可能にする。序跋の情報は文化圏の実態を正確に反映すると考えてよい。
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