前年度に引き続き、内閣文庫所蔵の典籍を中心に、序・跋・識語の情報を収集した。漢詩文の点数が多く、調査の主力をそちらに振り向けざるを得なかったため、他の分野の調査を十分行うことが出来ず、分野によってはほとんど手つかずのまま残った所があるのは遺憾であるが、漢詩文の典籍に序跋を与えることの多い学者とその学統の関係、医・農書や和刻本漢籍との撰者の重複などについて、当時の文人・学者の学問世界の実体を十分想定できる見通しを得るに至った。ただし、あくまでも内閣文庫を一つのサンプルとして調査対象に選んだので、同文庫の所蔵典籍の手薄な分野、例えば俗文芸などについては十分な結果を得られず、他機関の更なる調査研究の必要性も痛感するに至った。 今年度で調査を終了するに当たり、近世中期の刊本の一部しか調査できなかったこと、分野によって偏りが生じたこと、情報の収集と入力に追われ、総合的な検討が出来なかったことなどを反省材料として提示せざるを得ない。近世中期の学芸界において、かなりの実力と名声を持った学者・文人の幾人かに焦点を当てて、彼らの活躍の場の検討を通じて序跋撰文の意味を考えるなどの考究が必要となろう。現段階ではそこまで至ることが出来なかったので、集積した情報をもとに、総合的な考察を加えた形で報告書をまとめていきたいと考えている。
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