平成11年度から3年間にわたって、内閣文庫に蔵される近世中期(主として18世紀に該当する)の刊本の序・跋・識語を抜き出して集積する作業に従事した。調査対象の中心は、儒学を修めた学者・文人が序跋を与えることが多かった「総記」「文学」(特に漢詩文)「医学」「理学」「産業」に属する書物である。研究の目的からいえば、国書の「準漢籍」、漢籍目録に配列される和刻本漢籍は悉皆調査を是非とも必要としたのであるが、あまりの点数の多さ故に、今回は集積を断念せざるを得なかった。 近世中期の学者・文人は、儒学を中心に様々な学芸に関わっているが、これまでの学芸の世界の学派・流派を基準とした説明に加えて、公務上の立場の関わり、屋敷の近さなどの地縁、縁戚関係をも含めた血縁などによっても濃密な文化圏が生まれることが具体的に知られる。例えば、奥坊主成島信遍と奥儒者中村蘭林の文化圏の交わりの希薄さなどは、同時代の同じ職場に働く彼らが、公務上は全く異なる立場を有していたらしいことを示唆する。これはほんの一例であるが、今回の調査をもって初めて明らかになる事柄は多いと思われる。 今後は、未調査の内閣文庫蔵本を残らず調査し、これを核として近世中期の刊本の情報を出来る限り多く組み入れて行く必要がある。既調差分のデータは電子化しているので、いずれ電子媒体で公開するつもりである。
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