二年目に入り、資料収集もかなり達成でき、研究テーマを領略できる項目を立てる見通しがついた。2000年度は以下の五項目の研究を推進した。 1)〈大陸〉のイメージ 1-1 漢文的教養の水脈 外交官竹添進一郎と文人竹添井井の分裂を中心に、日露戦後の佐々木信綱に至るまで、明治時代の文学者の中国大陸のイメージを分析する。現在進行中。 1-2 〈大東亜〉の外延 1940年代に急速に高まったアジア主義と外国文学の翻訳状況の関連性を分析する。時局の変化は遠くインドにまで及ぶ。現在進行中。 2)二つの朝鮮体験 木下杢太郎と安倍能成の朝鮮人観を再評価し、日本人の感性と身体の問題を掘り下げる。現在進行中。 3)中国人観の変遷 アメリカ人スミスの『支那人気質』(明治29、渋江保訳)以来、1930-40年代に至る夥しい中国人論を整理し、外国人と日本人の認識の違いを分析する。具体的には「苦力の声-文学者は何を聴いたか-」という論文に纏めた。視覚のみならず聴覚という身体感覚に基づく人間認識を研究したもの。2001年4月刊行の、『立教大学日本文学論叢』に発表予定。 4)女性文学者の中国・朝鮮体験を小説中心に分析する。今年度は「租界地 天津 曙街-森三千代『あけぼの街』における感性と身体-」と題して『立教大学日本文学』No.84(2000・7)に発表した。天津を舞台にした小説を通して一女性ジャーナリストの主人公のヒューマニズムを評価する論文。朝鮮については、次年度、同時代に活躍した作家川上喜久子の作品を分析する予定。
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