本年度は、室町後期に成立した能のリストに基づき謡曲テキストを収集し、あわせてそのデータベース化を行うことを作業の中心とした。対馬歴史資料館と宮城県多賀城市の東北歴史資料館に出張し、謡本の調査を行ったが、それらは付随的な調査であり、中心は法政大学能楽研究所所蔵の謡本調査となった。すなわち、代表者が従来から継続的に行っていた同研究所所蔵の謡本調査を主体にし、いくつかの作品については翻刻本文を作成した。調査し得た謡本はすべてCD-ROMに焼き付け、データベース化した。その内容は以下の通りである。 能楽研究所蔵観世流筆写謡本 永禄五年観世光教節付本・日爪忠兵衛宗政手沢謡本・室町末期節付本七種・光悦流書体六十番綴本・江戸初期筆桝型五番綴本・江戸初期筆十番綴本・江戸初期筆上掛謡本「定家」・上掛慶長頃謡本「楊貴妃」・江戸前期写上掛番外謡本(柳洞本)。 能楽研究所蔵金春流筆写謡本・能楽研究所鴻山文庫蔵金春流刊行謡本 金春元安巻子本・金春禅鳳筆冊子本・金春禅鳳筆巻子本・天文八年山崎宗鑑本・天文三年筆「初雪」・弘治二年金春喜勝筆巻子本・金春喜勝奥書巻子本・金春喜勝節付五番綴本・金春喜勝節付本「野々宮」「定家」「松風」・金春禅鳳筆巻子本「葵上」・金春七郎節付荒木実勝奥書本・宮王道三転写一番綴本・下間少進節付鳥飼道〓節付本・野上豊一郎旧蔵鳥飼道〓節付本・鳥飼道*節付本混綴五番綴本・毛利家旧蔵三番綴本・金春喜勝節付冊子本「知章・老松」・擬車屋本二種・刊年刊者不明内組本・同外組本。 これらは、能楽研究所を代表する資料群であり、従来研究代表者が収集してきた能楽研究所謡本のデータベース化は、今回の調査で主要な古本の大半が終了することとなった。次年度に残りを調査・収集することで、能楽研究所分については、ほぼ完了することになろう。 次年度は、今回の調査をさらに進めつつ、能楽研究所以外の所蔵文書にまで対象を広げ、また翻刻資料を増やすことにより謡本テキストの集成を目指したい。なおテキスト集成に付属する論文については、来年度中に執筆の予定である。
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