A(検閲本文復元と事例研究):許南麒「春窮詩集」(一九四九年六月号『潮流』)に関する研究発表や拙論で検閲削除本文を復元し、GHQ/SCAP検閲の不可視的記述を踏まえ私的解釈を試みた。 B(米国議会図書館所蔵旧内務省資料):拙論「一九四〇年代文学への試論的考察」で、徳田秋聲『西の旅』(四一年六月二十五日豊国社・原典は米国議会図書館所蔵旧内務省資料)及び『一莖の花』(四一年九月一日有光社発行・同)の被検閲本文の確定と作品解釈を行った。また、椋鳩十『鷲の唄』に関する拙論「軍事的規則性への非同意」も、同様の観点からの具体的作業である。 C(検閲実体の解明):中野重治の短編から敗戦期の現実と作品の「現実」読み取った拙論「閉域に置かれた言葉」や『坂口安吾事典』の担当項目で、敗戦期の検閲制度と作品が重複した実際を記述した。 D(試論的用語による個別性の集約):私的呼称「被占領下」「敗戦期文学」「GHQ/SCAP検閲資料」「GHQ/SCAP押収資料」などの用語を定義し、未確定の史的領域に関する分析作業に着手していない。これを、一つの反省とする。しかし次年度に学会の研究発表が許されており、史的概念を部分的に置換する可否を問う。他の研究者の批判的論点に、自身が学ぶことも多いと考える。 E(新資料の発掘):厳密な意味で新資料発掘といえないが、内務省検閲を制度的側面から検討する利便性を考え、『国立国会図書館所蔵発禁図書目録1945年以前』(八〇年三月同図書館収集整理部編集・同図書館発行)に基づき拙論「戦前・戦時期被検閲文学作品処分リスト」を作成した。またGHQ/SCAP検閲資料と同様の性格を有するGHQ/SCAP押収資料(私的呼称)があり、文学関連資料の入手と分析を継続する。
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