まず、鹿倉は「近世歌謡詞章と戯作(『江戸文学』20)において、江戸期の「歌謡本」が当時の人々に「読まれた書」であったことを論じた。また、「明和年間「長唄」記事-国立図書館蔵「おぎえ節正本集」をめぐって-」(同鹿倉『国語と国文学』911)を発表し「寄せ本」の実態を明らかにした。以上は、江戸の文化および文学研究のなかに、本課題で扱う「歌謡本(書)」を明確に位置づけるための活動である。 一方、豊澤は語彙関連の国語教育論をいくつか発表しつつ、これと平行して、明和から安永に刊行された所謂「常盤友系」の唄本(『唱歌/新聲 常盤友』(明和三年)『新板/増補 常盤友』(明和七年)『常盤友』(安永三年)など)のプレーン・テキスト・データ(機械可読テキスト)を作成した。この作業は、「語彙分析」さらには「索引作成」の基礎となるものであり、今後、鹿倉・豊澤共同で、諸本(諸板)を対照し、より正確なテキストとすべく継続する。 なお、海外における「歌謡本」調査の収穫として、ケンブリッジ大学図書館において柳亭種彦自筆書き入れのある「くどき節集」を閲覧、この写真版を手に入れている。また、大英図書館には、孤本の「豊後節正本」(表紙絵を歌麿画とするが存疑)および国内では既に散逸してしまった四種の長唄詞章を載せる「寄せ本」を閲覧した。ただし、大英図書館の収蔵書の複製は今のところ不可となっており、さらなる現地調査の必要を感じている。 以上が、本課題における今年度活動実績の概略である。
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