本研究は、『正法念処経』などに見られる「帝釈天と阿修羅との闘諍譚」や『仏鬼軍』・『強盗鬼神』などとの構想の類型性、『鹿野苑物語』・文保本『太子伝』・真名本『善光寺縁起』などとの表現の類型性に留意しつつ、『無明法性合戦状』と『鹿島合戦』とを詳細に比較検討することから始発し、当代東国における真宗教団や鹿島神人の動向と照らし合わせながら、『無明法性合戦状』と『鹿島合戦』の生成・展開について考察し、東国における唱導文芸の営みの一端を明らかにすることを目的とするものである。 研究期間2年のうちの2年目である平成12年度は、前年度の成果をうけて、主に次の二点を研究を遂行した。 (1)常陸国・上野国を中心に、唱導活動の足跡を確認する。 (2)『鹿島合戦』と同様の、在地に伝来する唱導色の濃い語り物資料を収集し、分析する。 (1)については、まず当該地域の寺社を中心に実地調査を行った。常陸国の神社関係では、近世期の水戸藩の宗教政策の影響が著しく、本研究に貢献する資料は収集し得なかったが、両国の寺院関係や上野国の神社関係では、多くの有益な資料を収集することができた。特に、浄土真宗・浄土宗・天台宗・日蓮宗等の各宗派や在地の神人団が相互に密接な交渉をもち、そのネットワークが唱導文芸の生成・展開相と不即不離の関係にあることを確認した。(2)については、『神道集』所収話と関連する『赤城山御本地』『船尾山本地由来記』『榛名山本地』等の語り物の新出伝本数種を検討対象に加え、そのモティーフ・表現法等を『鹿島合戦』のそれと比較検討し、前年度の『無明法性合戦状』との比較検討とは別の視点から、『鹿島合戦』の生成基盤について考察を加えた。
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