本研究は、『正法念処経』などに見られる「帝釈天と阿修羅との闘靜譚」や『仏鬼軍』・『強盗鬼神』などとの構想の類型性、『鹿野苑物語』・文保本『太子伝』・真名本『善光寺縁起』などとの表現の類型性に留意しつつ、『無明法性合戦状』と『鹿島合戦』とを詳細に比較検討することから始発し、当代東国における真宗教団や鹿島神人の動向と照らし合わせながら、『無明法性合戦状』と『鹿島合戦』の生成・展開について考察し、東国における唱導文芸の営みの一端を明らかにすることを目的とするものである。 上記の目的を達成すべく行った作業とその成果の主なものは、次のとおりである。 (1)『鹿島合戦』の諸本の異同を検討し、書写年次の最も古い富田本が最善本であると結論した。 (2)『無明法性合戦状』や文保本『太子伝』・真名本『善光寺縁起』の守屋合戦の条などと、構想・表現の類型性に着目して比較検討し、『久能寺縁起』中の記事との関連も勘案して、作品生成の基盤が東国の唱導活動にあることが明らかになった。 (3)『鹿島合戦』と同様に六段構成をもつ在地伝来の語り物諸作品と比較検討した結果、作品生成の基盤と享受相が『神道集』所収話関連の語り物と通底することが明らかになった。 (4)常陸国鹿島から上野国を経て信濃国善光寺を結ぶルート上に、生成・展開圏を想定し、当該地域における唱導者の活動について調査した結果、想定内容が妥当であると結論した。 尚、本研究の成果の一部を、平成13年末に三弥井書店より刊行予定の大島編著『伝承文学資料集成第六輯 神道縁起物語(二)』において公表すべく、成稿中であることを付記する。
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