科学研究費補助金補助事業の3年目である本年度は主に草双紙研究のまとめと、浮世絵分野への研究の発展を図るため、国内の未調査草双紙の書誌調査、江戸文学における『見立て」の意識で描かれている役者絵の調査収集、役者絵の書誌及び『見立て」の解明のための注釈作業を行った。役者絵の収集は、当該研究費による原本購入と、図書館等での35mmポジフィルム・ネガフィルムによる写真撮影、デジタルカメラ撮影、並びにパソコンBJ印刷による方法で行った。 これらの研究の成果として、約20年前から継続しておこなっている草双紙における演劇受容の問題を、浄瑠璃抄録物草双紙の問題、初期草双紙における役者紋・替紋・合印による歌舞伎役者写しの手法、役者似顔絵を使用し始めた草双紙の問題、役者似顔絵を使用することによって文章に明記されていること以外の情報を読者に提供するようになる草双紙の解明、演劇との関係が特に深い後期草双紙の問題などを、現在の演劇研究・浮世絵研究・近世文学研究の水準に合わせて見直し、1.000枚(400字詰め原稿用紙に換算)の論文にまとめた。なおこれは、明治大学に提出し、平成14年(2002)1月12日の審査を合格した学位請求論文『草双紙と演劇」(審査委員、原道生教授他2名)となった。この学位請求論文は、近世文学・近世演劇・浮世絵の他分野に亙る内容であり、他分野を同時に視野にいれることにより、見えてくるものに注目した新しい研究方法である。また、この論文は1年以内に公刊することが条件となっている。 その他の成果としては、平成13年9月国文学研究資料館文献資料部発行の『調査研究報告 22号』に、「六段本『こくせんやぐんき』と浮世草子挿絵」を発表した。六段本『こくせんやぐんき』は、浄瑠璃『国性爺合戦』の資料としては、零葉2枚が紹介されたのみの、貴重な新出資料である。この資料を紹介し、江戸において上演されていない浄瑠璃でも、浮世草子型の読書を目的とした浄瑠璃本を参照して、草双紙形態の読み本浄瑠璃(六段本)が作られていたことを、挿絵の構図的類似を中心に解明した。 このように当該補助事業は、近世文学・近世演劇の両分野に亙る研究で、両分野の交流研究という意味でも、大変興味深く意義のあるものと考える。
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