研究概要 |
科学研究費補助金補助事業の4年目である本年度は、草双紙研究で今まで研究が進んでいなかった、浄瑠璃抄録物草双紙の出版に関する問題の解明と、草双紙出版における後摺り本の問題を解明した。また、海外に所蔵される草双紙の整理調査、目録化も行った。一方、浮世絵分野への研究の発展を図るために、江戸文学における「見立て」の意識で描かれている役者絵の調査収集の一環として、役者絵の書誌及び「見立て」の解明のための注釈作業を行った。役者絵の収集は、当該研究費による原本購入と、図書館等でのデジタルカメラによる撮影、既撮影の35mmポジフィルム・ネガフィルムを、スキャナー処理によりコンピューターに取り込み、整理すると共に、パソコンバブルジェット印刷によりデジタルプリント化を行った。 これらの研究の成果として、浄瑠璃抄録物草双紙の視点から、江戸における浄瑠璃享受の問題を、享保改革や寛政改革等法規制の面からの考察を行い、また、上方とは異なる江戸における嗜好性を捉えて、江戸における浄瑠璃享受の一端を明らかにし得た。また、歌舞伎『東海道四谷怪談』の正本写し合巻が、上演の都度に、演じた役者の顔の部分や演出の変化を投影させて、主に経済的な理由から、初版の版木を利用して変化のあった部分のみを象嵌して刊行していたという、近世独特な版本の後摺り本の問題も明らかにした。また、イタリアローマ在の、サレジオ大学マリオ・マレガ文庫に所蔵される、全900点、約5,000冊もの草双紙や浮世絵(主に役者絵)の整理と書誌調査を行い、日本書籍目録を作成した。一方江戸時代後期浮世絵(役者絵)の見立ての考察を行うために、安政年間の見立て役者絵のシリーズ『当世好男子伝〔とうせいすいこでん〕』の全9枚を、中国小説『水滸伝』と、日本の近世演劇や小説に登場する侠客と、当時の歌舞伎役者の劇界における位置の3つにわたる観点から注釈を加え、見立てを解明した。 これらの研究成果のうち草双紙に関係したものは、近く『草双紙と演劇』と題する単著として、刊行予定である。
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