1.草双紙及び役者絵は、資料整理や研究が進んでいない分野である。そのため本研究では、該当資料が所蔵されている国内外の図書館や美術館に行き、写真撮影することを行った。撮影は最初は35ミリポジフィルムで行ったが、コンピューターによる管理を行うため、デジタルカメラによる撮影に変更した。また、約30点の原資料の収集も行った。 2.草双紙と演劇との関係について論じられた、大正期からの先行研究約200点のデータベースを作成し、草双紙作品名と浄瑠璃作品名の両方から検索できるようにした。 3.1.によって発見された資料により、寛政期に非常に多く出版されている浄瑠璃抄録物黄表紙の中には、享保期に出版された青本を元にして作られているものがあることを発見した。これにより、寛政期の浄瑠璃抄録物黄表紙は、寛政改革による出版統制が、草双紙出版に大きな影響を与えた例と考えることができた。また、3代目歌川豊国とその弟子達によって描かれたと思われる、多くの役者絵の下書きを発見し、幕末の役者絵との関係を考察した。その他新出資料や全く言及されなかった資料を20点ほど考察した。 4.約20年前から継続して行っている「草双紙が演劇をどのように取り入れたか」という研究に、過去15年間の演劇・浮世絵・近世文学の最新の研究成果を反映させて、「草双紙と演劇」に関する論文を全て現在の研究水準に耐えられるものに作り直した。 5.海外に所蔵される、草双紙を中心とした日本書籍の調査と整理を行い、特にイタリアのサレジオ大学マリオ・マレガ文庫においては目録を作成した。 6.「見立」の手法で描かれている役者絵の収集と撮影を行い、「見立」の文学的・演劇学的な意味の解明を行った。なお、この研究は、まだ一部しか完成されていないため、今後継続して収集と「見立」の解釈を行う予定である。
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