近世期に刊行された通俗仏教書の書誌データの蓄積を主目的とし、併せて仏教書(仏教学書)の書誌データの採集をも行った。その結果、書誌的側面においては通俗仏教書よりも仏教学書の方が、求版・覆刻・刊記の偽造等の書誌的事情が錯綜していることが判明した。ことに刊記の偽造は商業出版機構における商品としての仏教書の位相を推し量るバロメーターとなるため、積極的にその濫觴を求めるべく、個別・具体的な調査を行った。 結果、如上の現象は、寛永初年に遡り得ることが確認でき、なおかつ今年度の調査範囲では、その嚆矢を寛文六年杉田勘兵衛尉刊本『大原談義聞書抄』を現存最古の偽刊記の事例として確定することができた。 一方、通俗仏書に関する研究においては、当代刊行の和刻本仏書と通俗仏書の関係を探るため、個別的な作品に限定して典拠研究を行った。そのサンプルとして選んだ作品は、浅井了意作の仏教説話集『法林樵談』(元禄四年刊)である。その研究の具体は和刻本として『法苑珠林』の寛文九年村上平楽寺刊本を選び、当該の刊本の訓点等との比較を試みた。 また、非和刻本の利用頻度・利用態度の実態を探るため、『太平広記』等との比較を併せて試みた。
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