本研究は、近世期に刊行された通俗仏教書の書誌データの蓄積を主目的とし、併せて仏教書(仏教学書)の書誌データの採取をも行った。既に前年度において、通俗仏教書よりも仏教学書の方に書誌的な問題点が錯綜することが判明している。そこで、今年度はそれに引き続き、各種仏教学書の書誌データの拡充に努めた。 また今年度は、本研究の最終年度に当たるため、期間内に調査し得た書誌データの整理に努め、様々な観点から検討・考察を重ねてその整理方法について模索した。当初の予定では宗派の別をも考慮することを目指したが、各宗共用の書物も多数存在し、ことに近世初期・前期においては、むしろ不自然な形態にならざるを得ないことが判明した。 そこで、データの整理にあたっては、書誌学的な観点を機軸として、数例のサンプルの作成を試みたところ、この整理方法に拠るデータ管理がむしろ誤謬も少なく、さらには諸方面の利用に際して応用がきくため、便宜が大きいことが判明した。 さらに今年度は、全冊撮影を許可された各種刊本資料の内容をも検討し、通俗仏教書とその影響下にある通俗文芸との思想的な乖離の調査にも関心を及ぼした。その結果、仮名草子の内でもことに浅井了意作の怪異小説(『伽婢子』など)には、当代における宗教・民俗的な禁忌観を見事に指弾する性格が浮き彫りにされていることに加えて、仏教書の様式では表現することの難しい領域を「草子作家」独特の手法によって描かれていることが判明した。
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