本年度は勅撰集を中心とする和歌資料、及び『平家物語』に関連する資料・文献・研究文献を収集し、問題とすべきことを整理し、時代史を俯瞰するための土台を整備した。特に、後堀河・四条の時代、後嵯峨院の時代、伏見院から南北朝、という、『平家物語』が生成される過程のエポック的な時代-これらはそのまま勅撰集が編纂され歌壇が活況を呈した時代と重なる-、この3つの時代を和歌と軍記文学の双方から広く捉え直すことを意図した。 和歌文学関係に関しては、本年度は『新古今和歌集』『新勅撰和歌集』、及び承久の乱関係、後鳥羽院関係、後嵯峨院関係、伏見院関係の資料の収集に努めた。また、軍記文学関係では、『平家物語』の諸本、特に延慶本、長門本を中心に収集調査した。また、双方が深く関わる『明月記』については、双方からの検討課題として重視した。印刷物以外の写本・文書類は、国文学研究資料館・宮内庁書陵部・東大史料編纂所・国立歴史民俗博物館、その他の地方の文庫・図書館などで、マイクロフィルム・紙焼写真・複写による収集を行った。分担は、和歌とその周辺資料を田渕、『平家物語』とその周辺資料を櫻井が担当した。これらの資料の整理、及び論文作成のために、田渕・桜井ともにパソコンを用いて、資料・文献の整理・論文作成にあたり、かつ京都・大阪などへ調査へ赴き、複写資料によって解析を進めた。また、平行して、それらの解読・分析・意見交換を行い、更に不足のものを収集することに努めた。来年度はこうした調査をもとに「敗者」像を文学の中心に据えていくまでの文化と意識の変遷を具体的に考察する。
|