研究概要 |
中国語における複合動詞は、その内部構造について見た場合、動賓構造動詞や同義複合構造動詞を始めとして数種類に分類することができる。それぞれの内部構造を持つ複合動詞は、当然ながらその内部構造に相応しい文法的特性を持つ。そのため、たとえば動賓構造動詞は内部に賓語を内包する以上、外部に賓語をさらに従えることはできない。ところが一部の動詞はこうした原則から外れ、外部に賓語を従える。これは、内部構造に変質が生じた結果であると考えられる。 そこで本研究は、明代以降の白話を主対象にしながら、時には先秦時代の文言にまで遡り、複合動詞の内部構造の変遷過程を、歴史的観点から明らかにしようとした。この研究を通じて、本研究が明らかにし得たものは、「得罪」「担心」「小心」「夢見」「看見」などの動詞の内部構造の変遷に関する知見である。すなわち、 1,動賓構造を内包する動詞が非動賓構造動詞であるかのように、外部にさらに賓語を伴う文言由来の例…「得罪」 2,上記と同様の特性を持つが、歴史的には比較的新しいと考えられる例…「担心」 3,上記と同様の特性を持つが、賓語がウケテの関係ではなく、原因の関係を示す例…「小心」 4,本来は偏正構造または同義複合構造動詞であったものが結果補語構造へと変質した例…「夢見」「看見」 本研究は以上の動詞を主なる例に挙げ、複合動詞の機能に変化を促す力と、それが作用する過程を明らかにした。ここで得られた知見は、今後、現代漢語における動詞の内部構造の類型分類を試みる際、重要な視点を提供することとなるはずである。
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