本研究は、中国唐宋期における詩を、文人間の情報伝達のメディアのひとつと位置づけ、その受容・交換のあり方を解明するとともに、それに関連した詩学認識上の諸問題について考察するものである。この研究の一環として、今年度は主に下記の二つの課題を中心とする研究を行った。 (1)唐宋期における詩と歴史記述との関わりに関する研究。歴史書のもつメディアとしての性格と、詩がもつそれとは、どのような関係にあると認識されていたのか。特に「詩史」という考え方をめぐる議論をとりあげて考察した。その結果、宋代における詩人年譜・編年詩文集の成立と「詩史」という考え方との密接な関わりを明らかにした。その成果は「ICANAS(アジア・北アフリカ国際研究者会議)」(2000年8月、カナダ・モントリオール)において発表した。 (1)宋代詩学における「貨幣」「商品」「資本」観念についての研究。宋代の文人の詩をめぐる議論のなかには、「貨幣」「商品」「資本」といった経済学的なタームが頻出する。この点に着目することにより、宋代の詩学に対する貨幣経済・商品経済の影響を考察した。その結果、宋代における詩の交換・流通状況とそれにともなう詩学認識の変容を明らかにした。その成果は「詩はどこから来るのか?それは誰のものか?-宋代詩学における〈内部〉と〈外部〉、〈自己〉と〈他者〉、あるいは〈貨幣〉〈商品〉〈資本〉」と題する論文として発表した。 以上の研究を通して、唐宋期の詩学認識の特質の一端を明らかにするとともに、メディアとしての詩の交換・受容のあり方を総合的に考察するための基礎を築いた。
|