本研究は、中国唐宋期を中心に、詩を文人間の情報伝達のメディアのひとつと位置づけ、その受容・交換のあり方を解明するとともに、それに関わる詩学認識の変容について考察するものである。本年度は、過去二年間の研究を踏まえて、主として次の二点に関する研究を行った。 1.宗代における詩人年譜、編年詩文集の編纂とそれにあらわれた詩学認識の変容に関する研究。これについては、「文学の歴史学-宗代における詩人年譜、編年詩文集、そして「詩史」説について-」と題する論文を公刊した。また、北宋末南宗初における蘇軾、黄庭堅の注釈詩集の編纂に関する研究を行った。 2.南宋の詩と詩学の特質に関する研究。これについては「中国の詩と風景-『江山之助』をめぐって-」と題する論文において、南宋の楊万里を主として取り上げ、その自然認識を手がかりに、唐および北宋期と異なる南宋期の詩と詩学の特質を考察した。 上記二点の研究と並行して、北宋の恵洪『石門文字禅』の研究に着手した。今後、この研究を通して、更に宗代における詩の読解・受容、そして詩の伝播・伝承の在り方を解明してゆく予定である。
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