詩は、文学的芸術作品であると同時に、人と人、人と世界とを結ぶ情報伝達のメディアでもある。そして、詩を情報伝達メディアとして捉える場合は特に、詩の制作の側面のみならず、その受容および流通・交換の側面をも視野に入れる必要がある。本研究は、このような問題意識のもとに、唐宋期を中心とする中国古典詩の受容・交換のあり方を解明するとともに、関連する詩学認識上の諸問題について考察することを目的として行われた。研究期間内に行った研究成果の概要は以下の通りである。 1、詩の受容・交換において、作品の標題はどのような役割を果たしていたのか。また、果たすと認識されていたのか。宋代に盛行する「著題」論をとりあげて、その系譜学的研究を行った。 2、歴史書が持つメディアとしての性格と、詩のそれとは、どのような関係にあると認識されていたのか。宋代に盛行する「詩史」論をとりあげて考察した。 3、宋代の詩論のなかにしばしばあらわれる「貨幣」、「商品」、「資本」概念に注目することにより、宋代の詩学に対する貨幣経済・商品経済の影響をメディア論の視点から考察した。 4、宋代に編纂された詩文集の編纂状況の解明を行うとともに、詩文集、とりわけ編年形式による詩文集の編纂を支える文学観に関する研究を行った。 以上の、研究成果は、別項にあげる論文や各種国際学会において発表した。
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